ごあいさつ
朧月とは春の季語で、霞がかかり輪郭がぼやけた月の事を指します。また、「朧」という漢字にも龍の字が隠れております。龍のようにその姿を捉えることの出来ない物が朧の意味するところですから、表す文字にも龍が使われています。ちなみに朧の一文字でも朧月の意味があります。
日本人は太古より龍を、水の神、天候や自然を司る神として信仰してまいりました。古墳の壁画や出土品に、古事記や日本書紀に登場する八岐大蛇伝説に、お寺の天井画や襖絵、神社の装飾、現代ではゲームや漫画、アニメなど、時代を超えて幾多の芸術家によって龍の姿は生み出されてきました。
しかし、未だに新たな龍を求めて手を動かす者たちがいます。私もその一人と言えるでしょう。これまで龍の最高傑作と呼べる作品は曾我蕭白や長沢芦雪によって、或いは鳥山明氏によって生み出されておりますが、それを見て「よし満足、私の出番はもうないな」とはいきません。まだ見知らぬ龍はどこかにいるはずだと捉えようとしてしまうのです。しかし冒頭で述べた通り、龍は朧(おぼろ)なものです。尻尾を掴んだ喜びも束の間、するりと霞へ消えていきます。朧月夜に龍は舞い、捕まえようとする者は龍に踊らされてしまうのです。